年間55,000人が死亡している狂犬病。1950年以降、国内の感染事例はありませんが、海外で感染後、帰国して発症した事例はあります。
そして、発症した場合の致死率は100%です。恐ろしい狂犬病の症状や感染経路などを詳しく解説します。
年間55,000人の死者が出る狂犬病
狂犬病ウィルスによる感染症で、犬や人も含め全ての哺乳類に感染します。過去の国内感染例では圧倒的に犬が多いですが、地域によってはコウモリやキツネが感染源になります。
感染した動物に噛まれる、舐められる、引っかかれることで傷口から唾液などを通じてウィルスが侵入し、筋肉や神経に増殖します。
ごくまれにウィルス濃度が濃い場合、気道粘膜で感染した事例もありますが、最終的には脳に移行し、死に至るのです。
WHOの統計では年間55,000人が狂犬病で死亡、そのうち3万人以上がアジア地域で発生しています。
日本や英国、北欧のスカンディナヴィア半島やオーストラリア、ニュージーランドやハワイ諸島などでは狂犬病感染のリスクはほとんどありません。しかし、他の地域は感染事例が多いため、動物との接触はなるべく避けたほうがいいでしょう。
主な感染源はイヌやコウモリ
地域によって異なりますが、感染源となる動物は次のとおりです。
地域 | 感染源となる動物 |
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アジア・アフリカ | イヌ・ネコ |
ヨーロッパ・北米 | コウモリ・キツネ・スカンク・アライグマ・イヌ・ネコ |
中南米 | イヌ・コウモリ・マングース・ネコ |
犬と人が発症した場合、症状は異なる
ここでは犬と人の場合の症状について解説します。
犬の場合は「狂躁型」「麻痺型」の2種類がある
前駆期を経て狂躁(きょうそう)型と麻痺(まひ)型に分かれますが、80〜85%は狂躁型です。
前駆期 |
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狂躁型 | 2〜4日間続く症状
その後昏睡や嚥下(えんげ)困難が起こり、1〜2日で死亡 |
麻痺型 |
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人の場合は呼吸障害や不整脈を経て死亡
最初は頭痛・のどの痛み、食欲不振・嘔吐、高熱など風邪の症状とよく似ています。
しかし、1週間ほどすると、強い不安感や錯乱、首周辺の筋肉のけいれん、水を飲まない・水が怖くて手も洗えない「恐水症状」や、エアコンの風にあたるのも嫌がる「恐風症状」などの症状がでてきます。更に病状が進むと、呼吸障害や不整脈を経て死亡します。
実際の感染事例
平成18年(2006年)、フィリピンから帰国した60代男性が狂犬病で死亡しました。
8月頃 | フィリピン滞在中、犬に手を噛まれるがワクチンは摂取せず |
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10月22日 | 帰国 |
11月15日 | 風邪のような症状と右肩の痛み |
11月19日 | 病院を受診し、点滴と血液検査を受け帰宅。夕方に薬を服用するが、飲水困難に。夜には呼吸困難となる |
11月20日 | 再度病院を受診。興奮状態で恐風・恐水症状がみられたため、狂犬病の疑いがあると診断。別の病院へ転院 |
11月22日 | 人工呼吸器を装着 |
12月7日 | 死亡 |
国立感染症研究所でこの男性の唾液から病原体遺伝子の検出を試みたところ、狂犬病ウィルス遺伝子が確認できました。
発症後の致死率はほぼ100%!
狂犬病の一般的な潜伏期間は1〜3ヶ月ですが、長い場合は1〜2年後に発症した事例もあります。発症前に感染の有無が診断できない上に、発症した場合はほぼ100%の確率で死亡します。
唯一の対処法はワクチン接種
発症したらほぼ助からない狂犬病ですが、発症前にワクチンを連続して摂取することで発症を防げます。
動物に噛まれるなど狂犬病感染の疑いがあるときは、できるだけ早く医療機関の診療を受け、すぐに定期的なワクチンの皮下接種を受けてください。抗狂犬病ガンマグロブリン投与との併用がより効果的ですが、利用可能な地域が限定されていますので、現在日本での入手は困難になっています。
ワクチンは最初の接種日から3日目・7日目・14日目・30日目・90日目の計6回摂取する必要があります。
接触した動物が特定でき、予後観察が可能で接触後2週間以上その動物が発症しなかった場合は、接触した時点で狂犬病感染の可能性がなくなるためワクチンの連続摂取は不要です。
発症後生還できたレアなケース
2004年アメリカで、15歳女性がコウモリに噛まれ1ヶ月後に発症しましたが、ミルウォーキー・プロトコルという治療法でワクチン接種をせず生還した事例があります。
ケタミンやミダゾラムといった麻酔薬を使い、脳の活動を一時的に抑え、狂犬病ウィルスに対する抗体ができるのを待つ方法ですが、まだ数名しか生存例がないため、治療法としては不確かです。
海外で動物と接触が予測されるときは予防接種が有効
現在、国内で動物と接触したことによる狂犬病の感染リスクはありません。
しかし海外ではなるべく動物と接触しないほうが身のためでしょう。どうしても接触したい、接触せざるを得ない場合は、ワクチンの予防接種をおすすめします。
4週間ごとに2回皮下注射を接種し、6〜12ヶ月後に追加接種が必要です。ここで重要なのは、予防接種を受けていても現地で感染の疑いがある動物と接触した場合は、暴露後ワクチンを打つ必要があります。
予防接種したから大丈夫ではないので、気をつけてくださいね。
感染したと思ったら早急に医療機関にかかりましょう
動物に噛まれたりした時は、すぐに石鹸と水でかまれたところを洗い流します。できるだけ早く医療機関での診察を受けましょう。
人から人へ感染は基本的に無い
感染症で気になるのは人同士の感染ですよね。狂犬病の場合、一般的に人から人への感染リスクは基本的にありません。しかし、角膜や肺などの臓器移植で感染した事例はあります。
大切な家族を失わない為にも予防接種は必須
日本では「狂犬病予防法」に基づき、生後3ヶ月以上の犬の所有者はその犬を所有してから30日以内に登録・鑑札の交付を受けなくてはなりません。
年1回の狂犬病の予防接種を受け、注射済票の交付を受ける必要もあります。
鑑札と注射済票は必ず犬に付けることは、犬を飼う人の義務です。違反者は20万円以下の罰金が課され、犬は捕獲・抑留対象になります。
最近は、海外からやって来る動物も増えているので、国内にいても狂犬病感染のリスクが0%ではありません。接種後、感染動物との接触の疑いがあるときは、人間と同様、ワクチンの再接種で発症を防げます。
万が一狂犬病を発症してしまった犬は、ワクチンの再接種と症状による苦しみから解放してあげるには安楽死を選択するしかありません。予防を怠ったために大切な家族を失うことがないように、ワクチン接種は必ず行ってくださいね。
狂犬病は発症したらほぼ100%の確率で死に至る恐ろしい感染症です。しかし、ワクチンの接種で人も犬も発症を防げますから、感染の疑いがある場合はすぐに医療機関で診療を受けましょう。