加齢によりがんの発生率が高まるのはヒトも猫も同じです。
そして、ヒトと同じように、猫のがんも早期発見・早期治療がその後の生活の質や余命を左右します。
大切なネコちゃんの命を守るために、今回は猫に多いがんとその症状・原因をご紹介したいと思います。ご紹介する症状を参考に、日々ネコちゃんの体をチェックする習慣をつけましょう。
脱毛を伴うしこりや嘔吐・下痢など:肥満細胞腫
肥満細胞とは皮膚や粘膜にあり、猫の体型に関わらず全身の組織に存在している細胞です。肥満細胞は免疫細胞のひとつであり、通常は身体を守る働きをしていますが、がん化すると肥満細胞腫になります。
肥満細胞腫にはその名のとおり皮膚にできる皮膚型肥満細胞腫と、内臓にできる内臓型肥満細胞腫の2つのタイプがあり、皮膚型肥満細胞腫の50〜90%が良性であるのに対し、内臓型肥満細胞腫の85%以上は悪性とされています。
いずれの治療方法も基本的には腫瘍とその周辺の切除手術となり、腫瘍を完全に切除できないなどの場合には、放射線治療や化学療法を行います。
症状は次のようにそれぞれ異なりますが、猫の場合は皮膚型肥満細胞腫の方が多く発症する傾向にあるようです。
皮膚型肥満細胞腫の症状
まれに複数箇所に多発することもありますが、多くの場合はポツンと1個だけしこりができます。小さいものであれば数ミリほどと目立ちにくく、その場合、痛みや痒みなどもほとんどありませんが、しこりの部分が脱毛するのが特徴です。
しこりができる場所は、耳や耳の付け根、目の周りといった頭部、首のまわりが多いものの、身体のいたるところにできることがあります。
内臓型肥満細胞腫の症状
初期症状として軽い嘔吐や下痢から始まり、病状が進行するにつれてそれらの症状も悪化します。さらに、元気がない、食欲がない、一度眠ってしまうとなかなか起きない、体重が減少するといった症状を伴うこともあるでしょう。
お腹にしこりができたり、しこりができることで痩せていてもお腹だけが出ているように見えることもあります。
肥満細胞腫の原因は遺伝という説も
肥満細胞腫のはっきりとした原因はわかっていませんが、他の品種に比べてシャムの発症率が高いことから、遺伝が関係しているという説があります。
また、多発性の皮膚型肥満細胞腫では、いわゆる「猫エイズ」と呼ばれる猫免疫不全ウイルス(FIV)を発症した際に併発することがあるため、FIVとの関係があるとも考えられています。平均発症年齢は9〜10歳と高齢の猫の方が発症しやすい傾向にありますが、シャムについてはその限りではありません。
ほくろ状のものや食欲不振・口臭など:悪性黒色腫(メラノーマ)
悪性黒色腫とは皮膚がんの一種で、メラニン細胞ががん化して悪性腫瘍となることから別名メラノーマとも呼ばれています。
悪性黒色腫は口腔内や皮膚、眼球、手足の指といった場所にできやすく、進行スピードが速いため、口腔内で発生したものが肺などの内臓に転移することもあります。
一見ほくろやシミに似ていますが、色がまだら、丸などではない不規則な形、周りの皮膚との境目が滲んだようにはっきりしていない、触ると周りの皮膚より硬いなどの特徴があるため、疑わしい場合は動物病院を受診しましょう。
また、腫瘍が大きくなってくると口腔内の場合は食欲不振や口臭、よだれが出るといった症状も見られるようになるため、歯周病や歯肉炎と間違えてしまうこともあります。
悪性黒色腫の治療は、小さな腫瘍であれば外科手術による切除が可能ですが、例えば顎の骨にまで腫瘍が広がっている場合は骨ごとの切除、眼球であれば眼球ごとの切除を行います。臓器に転移している場合は切除が難しい場合などには放射線治療や化学療法を行うこともあるでしょう。
前述のとおり、悪性黒色腫は進行スピードが速く、手術後に再発することも少なくありません。そのため、早期発見と経過観察が非常に重要なのです。
悪性黒色腫(メラノーマ)は刺激が原因となることも
悪性黒色腫はメラニン細胞ががん化することで起こりますが、がん化の原因のひとつとして考えられるのが慢性的な刺激です。例えば口腔内であれば、硬いフードを食べることや、歯周病により起こる慢性的な炎症などが挙げられます。
歯周病を防ぐためには歯ブラシによるブラッシングが効果的ですが、ブラッシングの際も力を入れすぎると刺激となってしまいますので注意が必要です。
この他にも、免疫力の低下やストレスといった原因も考えられるため、悪性黒色腫にはっきりとした予防法はありません。しかし、悪性黒色腫の多くは目に見える場所に発生するため、日頃からネコちゃんの身体をよくチェックし、早期発見を心掛けましょう。
下痢や嘔吐、食欲不振など:リンパ腫
リンパ腫とは白血球の一種であるリンパ球ががん化することで起こるもので、猫はヒトの20倍の確率でリンパ腫が発生すると言われています。
リンパ腫と一口に言ってもその種類や症状は様々なのですが、ここでは、猫によくみられるリンパ腫のうち、最も発症の多い消化器型リンパ腫に絞って症状を解説します。
腸にできる消化器型リンパ腫では、まれに全く症状が出ないケースもありますが、多くの場合は下痢や嘔吐、食欲不振や体重の減少、腹部にしこりができるなどの初期症状が表れます。さらに、症状が進行してくると、食事ができなくなるだけでなく、下痢などの症状が急激に悪化します。
なお、いずれのリンパ腫も治療は化学療法が中心となり、半年から1年以上かけて繰り返し治療を行っていきます。外科手術や放射線治療は限られたケースにのみ行われることがほとんどです。
リンパ腫の原因は猫白血病ウイルス(FeLV)が深く関係している
リンパ腫を発症した猫の平均年齢は8〜10歳ですが、平均よりずっと若い3歳程度の猫がリンパ腫を発症することがあります。そして、これら若い猫の多くは猫白血病ウイルス(FeLV)に感染していることが多いため、猫白血病ウイルスはリンパ腫の原因に深く関係していると考えられているのです。
この他にも、原因としては免疫力の低下やストレス、腸管の炎症などが考えられ、いくつかの原因が重なることで発症を引き起こしていると考えられます。
原因が明確ではないため確実にリンパ腫を予防できるわけではありませんが、若いうちからFeLVの感染を防ぐためのワクチン接種を受けることで、少しでもリンパ腫になるリスクを減らすことができるでしょう。
今回ご紹介したがん以外にも、猫が多く発症するがんには扁平上皮がん、乳がん、肝細胞がん、鼻腺がんなど様々なものがあり、なかには発症原因がはっきりしないものも少なくありません。
がんは早期発見が非常に重要です。そのため、日頃からのネコちゃんのボディチェックに加え、特に6〜7歳頃からは定期的に動物病院で健康診断を受けることをおすすめします。
また、疑わしい症状がある場合はすぐに動物病院を受診しましょう。